博物館の寄付に関するよくある質問
寄付全般について
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Q予算が削減される可能性がありファンドレイジング(資金調達)の必要性を感じています。博物館がファンドレイジングを始めるにあたり最初に考えるべきことは何ですか。
Aファンドレイジングは目的ではなく手段です。博物館として何を実現するために、どのような活動を行うのかを考え、言語化するのが最初のステップです。近年、寄付者は活動よりも、活動を通じて「どのような未来をつくりたいのか」「なにを実現しようとしているのか」を知りたいと思う傾向があるといわれています。そして次に、そのためにはどの程度の資金を必要とするのかを明らかにしましょう。どの程度の資金が必要なのかを把握したうえで、どのファンドレイジング手法を用いるのかを考えます。
ファンドレイジングの手法としては、以下のような手段が考えられます。近年はクラウドファンディングが注目される傾向がありますが、クラウドファンディングは手段の一つにすぎません。
・募金箱の設置
・通年で寄付の呼びかけと受け入れ
・使途が決められた指定寄付の呼びかけと受け入れ
・クラウドファンディング
・物品寄付
・ふるさと納税
・助成金・補助金
・企業寄付や企業協賛
・友の会などの会員制度
・事業収入
・遺贈寄付
目標となる金額を調達するために、どの手段を用いるかという順番で考えていきましょう。 -
Q人員不足の状態でどのようにファンドレイジングを実施していけばよいでしょうか。
Aファンドレイジングは担当者一人でやるものではありません。まずは館全体で支えあいながら進めることが重要です。しかし、通常業務を円滑に行うための職員の数も足りていない課題を抱える博物館もたくさんあります。
ぜひ思い起こしていただきたいのは、ファンドレイジングに取り組もうとする以前から、博物館のテーマやコンセプトに共感をしてリピートして通ってくれるコアなファン層や、展示協力者、館内ガイドやイベントやセミナー運営をサポートするボランティア、生まれ育った地域で、子どもの頃から慣れ親しんだ博物館に愛着を持っている市民などの存在です。
こうした人々は、博物館自体が自分の居場所や生きがいを得るために必要な場であることを常々感じ、館の存続を願っている最も館に近い存在です。また、館の事業運営に携わる担い手のひとりとして、館の安定的な事業運営を「自分事」として捉えてくれる仲間でもあります。普段からの事業運営で市民との関係構築を丁寧に行っている博物館では、ファンドレイジングに取り組む際にも、ぜひこうしたステークホルダーとの協働実践を検討していただくと、広報やイベント企画など、市民目線でのアイディアが飛び出したり、ひとりひとりが持つネットワークを活かして支援の呼びかけ役になってくださることもあります。館のスタッフだけではリーチできない層にも、市民ならではの多様なつながりで、より多くの人に参加の機会を提供することができます。
このことは、主体的に生涯学習やまちづくりに関わる市民のすそ野を広げることにつながり、これからの博物館に求められる「市民活動支援」や「地域活性化」の機能強化に向けて、まちづくりの「ハブ拠点」としての博物館となるための第一歩となるのではないでしょうか。
クラウドファンディングについて
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Q博物館がクラウドファンディングを行うメリットは何でしょうか。
A資金調達以外にもさまざまなメリットがあります。
(1) 博物館の価値や存在意義の言語化
博物館が何をやるのかだけではなく、なぜその事業をやる必要があるのか、なぜ博物館がやらねばいけないのかを言語化する必要があります。
クラウドファンディングは、博物館の価値や存在意義を言語化するだけではなく、言語化した存在価値をパブリックに示し賛同をいただけるか検証する機会になります。
(2)支援者の可視化
クラウドファンディング終了後、リターンを送るため支援者の名前や住所などの個人情報をダウンロードできます。支援者は既存の支援者が多いのか、地元の人が多いのかなど、「博物館の支援者はだれなのか」を可視化できます。
(3)ステークホルダーとの関係・連携強化
クラウドファンディングを通じて市民参画・協働の機会が生まれる可能性があります。クラウドファンディング達成のため、友の会のメンバーや地元の企業が自主的に支援の呼びかけを行っている事例が見られます。
(4)内部の能力強化
担当部署を超えて広報として活用できる情報を共有したり、達成に向けたアイディア出しをすることで、チームビルディングにつながったというケースがあります。 -
Qクラウドファンディングを成功させるためにはスタートダッシュが重要だと聞きました。
スタートダッシュをかけるために何をすればよいですか。Aクラウドファンディングを公開した後1週間で目標金額の2~3割を超えたプロジェクトの成功率は9割を超えるといわれています。そのためには事前広報を行うことが重要です。
(1)見込み支援者の確認
クラウドファンディングの支援のお願いができそうな方、広報の応援をいただけそうな方のリストを作成します。また関係性の強い方、大口の支援をいただけそうな方には、クラウドファンディングのスタート前にお知らせをして協力を呼びかけましょう。
各ステークホルダーに、誰が、どのタイミングで連絡を取るかも、事前に話し合い、決めておきます。
(2)参加の呼びかけと巻き込み
職員はもちろん、友の会やサポーターのメンバー、地元の商店街などにクラウドファンディングへの参加を呼びかけて、広報などを手伝ってもらうと、「知人の知人」が支援者となってもらえる可能性が高まります。
(3)発信手段の確認
博物館が出しているメールマガジン、公式のウェブサイト、Facebook、Twitterなど、どの媒体を使って、どのタイミングで発信をするのかを事前に確認し、情報発信のための準備をしましょう。
またインターネット上での広報だけではなく、チラシやポスターなどの紙媒体も用意します。紙は捨てない限り手元に残るという保存性という面で優れています。インターネットと紙のよさの両方を活用して情報発信を心掛けます。
(4)メディアへのアプローチ
過去に取材をしてくれた記者、地元の新聞社にプレスリリースを送ったりするなどして、露出を図ります。メディアに掲載されることで、第三者の目に止まる可能性が高まります。
スタート前からメディアのリストをつくり、タイムリーに情報を流せるように準備をしておきましょう。
会員制度について
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Q会員制度としての友の会を立ち上げたいと考えています。その際に考慮する点は何ですか。
A会員は博物館の利用者であるだけではなく、組織を支え、ミッションを実現する仲間です。そのことを考慮して会員制度を設計していきましょう。
(1)博物館が実現したいことを言葉にする
博物館は何を目指しているのか、実現したいのかを言葉にしましょう。その言葉があることで、友の会のメンバーの皆さんも「自分はどのように貢献できるのだろう」と考え、行動に移すことができます。
また実現したいことだけではなく、博物館が抱えている課題や悩みも伝えると、課題解決のために知恵を出してくれたり、力を貸してくれる頼もしい仲間になってくれます。
(2)共感、仲間感、実利感の要素を取り入れる
会員制度を設計するにあたり魅力的なものにしていくことを心掛ける必要があります。そのために共感、仲間感、実利感という3つの要素を意識します。
■共感
博物館のミッションに賛同し、その実現のための活動を支援したい
■仲間感
同じことに興味を持っている人たちと知り合ったり、博物館に関係する人の輪の中に入りたい
■実利感
割引や情報等、会員のみを対象とした実質的なメリットがあるから会員になりたい
(3)伝え方
よい会員制度があっても、興味をもってもらえなければ意味がないので、伝え方の工夫が重要です。
セミナーや報告会などの場で参加者に対して会員参加の働きかけを行う、博物館の利用者に対する働きかけを行う、既存会員に口コミしてもらうことでリーチを広げるなど、広報できる機会を計画していきましょう。 -
Q博物館の会員数減少に歯止めをかけ、会員離脱率を減らすためには何をすればよいでしょうか。
Aまずはなぜ退会をするのか分析をしたうえで、施策をつくります。
(1)退会の原因の分析
退会希望の連絡があった際、アンケートのお願いをして原因を特定します。会費が高い、会員であるメリットを感じない等、理由となりえそうなポイントを示し、選択してもらうようにすると答えやすくなります。
(2)会員満足度を向上させる施策
会員限定の交流イベントやワークショップを開催し、会員同士のつながりを強化したり、会員限定の講座を開いたりするなど、会員でいることに満足してもらえるような取り組みを行います。
(3)継続率を高める仕組みづくり
会員の更新時期が近づいてきたら通知メールを送ったり、お知らせを郵送するなどしてリマインドを出します。その際に、会員でいてくれるお礼、博物館が今後実現していきたい夢や計画、そして一緒に実現していきたいことを伝えましょう。
また忙しくて郵便局に行けない人向けに、クレジットカードで年会費の自動引き落としを導入し、更新手続きを簡略化することも検討しましょう。
(4)会員とのコミュニケーション強化
会員限定のニュースレターやSNSアカウントで展示情報や特典を発信するなど、会員の皆さんとコミュニケーションをとる機会を増やしていきます。特別に届く情報こそ、会員でしか得られない価値を感じてもらう機会をつくります。
遺贈について
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Q遺贈寄付の意味を教えてください。また遺贈には種類があると聞きました。どのような種類があるのかも知りたいです。
A「遺贈寄付」は「遺贈(遺言により相続財産を相続人等へ無償で譲与すること)」と「寄付」をかけあわせた造語です。遺贈は遺言を前提とした法律用語ですが、遺贈寄付の方法は遺言に限られず、「契約(死因贈与・保険・信託等)による寄付」や「相続人による相続財産からの寄付」も含まれます。
以前より、非営利団体へ遺贈する遺言は自然発生的に作られてきたため、日本においても昭和の時代には既に遺贈寄付は行われていましたが、2016年に一般社団法人全国レガシーギフト協会が「遺贈寄付」という言葉を造語し、広く呼びかけ始めていました。
遺贈寄付は「生前に自分で準備して死後に実現する」タイプと「自分では準備せずに相続人が寄付する」タイプの大きく2つに分かれ、さらにさまざまな方法があります。
生前に準備
■遺言による寄付
財産を団体へ遺贈する遺言書を作成する
■死因贈与契約による寄付
寄付者が死後に寄付することを団体と契約する
■生命保険による寄付
寄付者が団体を受取人とする生命保険に加入する
■信託による寄付
財産を団体に交付する目的の信託を契約する
死後
■相続財産の寄付
相続人が受け取った相続財産から寄付する
■香典返し寄付
遺族が香典返しに代えて寄付する -
Q博物館が遺贈寄付に取り組む意義はありますか。博物館が遺贈を呼びかけても関心を持たれないのではと思っています。
A遺贈寄付に取り組むメリットはいくつかありますが、その中でも特に博物館が取り組む意義は次のとおりです。
(1)生きがいに応える
ボランティア活動に参加している高齢者に参加理由を尋ねると、その多くは「生きがいのため」であると回答が返ってきます。その逆に、社会的な活動をしていない理由は、「体力的に厳しい」ことがトップです(内閣府:令和元年度 高齢者の経済生活に関する調査結果)。体力的に厳しい高齢者はボランティアに代えて寄付を選択することが増え、その最後の形が遺贈寄付となります。博物館等が遺贈寄付を受け入れることは、博物館を応援したいという意思や生きがいに応えることにもなります。
(2)自己実現の方法
世の中に多くの社会課題やその解決に取り組む団体がある中で、特定の活動や団体を選んで寄付する行為は、自分が「こうあって欲しい」と願う未来を選択することであり、これは即ち「自己実現」であるとも言えます。通常の寄付であれば、寄付の結果を自分の目で見られますが、遺贈寄付は亡くなった後の寄付ですので、結果を見ることができません。それでも寄付をするということは、自己実現の上の「自己超越」の領域ではないでしょうか。
(3)おひとりさまの財産の受け皿
いま日本では子どもの数が減少しています。また独身者も急速に増えています。財産を積極的に残したい直系の子孫がいないことを背景に、「受け取り手のいない財産」の受け皿として、遺贈寄付が増えている面も見逃せません。
(4)相続マーケット
日銀の資金循環統計によれば、日本の個人金融資産は2005兆円あり、うち60歳以上の保有割合が2035年には70.6%になると推計されており、高齢者に資産が偏在しています。高齢化とともに、相続で資産を受け取る相続人も高齢化する「老老相続」が起こっており、消費や投資に向かいにくい固定化された財産になっています。この相続のタイミングで動く財産のほんの一部でも、遺贈寄付で公益活動に活かすことができれば、多くの社会課題解決や博物館を支えていくことになります。
(5)レガシーでレガシーを支える
博物館という「さまざまな遺産(レガシー)を後世に伝えていく」存在を、遺贈寄付(レガシーギフト」で支えるという構造は、両者の相性が非常に優れていることを表しています。博物館こそ、遺贈寄付に取り組むべき存在であると考えられます。
法人寄付について
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Q企業の社会貢献活動はどのような種類がありますか。
A企業の社会貢献活動は寄付だけではありません。博物館の広報をしてくれたり、ボランティア派遣等さまざまな形があります。どのような形を博物館側、また企業サイドが望んでいるのかを議論しながら、どの手法を用いるのかを考えていきます。
(1)コーズプロモーション
自社で特定の社会課題についての認知拡大や寄付集めのためのキャンペーンや協力を行います。その際に寄付や物資提供、ボランティア派遣、流通経路の開放、場の提供などが伴うこともあります。
(2)コーズ・リレーティッド・マーケティング
以前、ボルビック社の「1リッター・フォー・10 リッター」という1リットルの水を買うと、開発途上国の水10リットルに代わるというキャンペーンがありました。このように、
売上の一部が寄付になる商品やサービスを販売する手法です。近年、日本でも伸びているマーケティングの方法です。
(3)ソーシャルマーケティング
生活習慣の改善、乳がん検診の促進のように特定の社会課題について、社会に具体的行動を促すキャンペーンを行います。コーズプロモーションとの違いは「行動改革」に常に焦点がある点です。
(4)コーポレート・フィランソロピー
企業による、直接の金銭寄付、物資の寄付など最も伝統的な支援の方法です。
(5)地域ボランティア
社員などによるボランティア活動を支援している企業もあります。
企業に寄付を依頼する際には、企業の関心や価値観をよく理解し、双方にとっての利益を考慮した提案を行うことが重要です。また、単発的な寄付ではなく、長期的なパートナーシップを目指すことで、博物館の持続可能な運営につながります。 -
Q支援のお願いをする企業をどのように探せばよいでしょうか。
A博物館に関連性のある企業や地元の企業などをリストアップしていきます。
(1) 博物館と関連性のある企業をリストアップ
■地元企業
博物館の所在地域に密着した企業は、地域社会への貢献を重視していることが多いです。地元商工会議所加盟企業などをチェックします。
■文化・教育に関心のある企業
文化財保護、教育、アート、科学などに関心が高い教育関連事業等を行っている企業。
■関連する業種
自然史博物館なら環境関連企業、歴史博物館なら観光業など博物館のテーマに関連する業種にある企業。
(2)企業のCSR活動等を調査
CSRレポートやウェブサイトを見て、企業がどのような社会貢献活動を行っているかを調べ、博物館活動との親和性を確認します。また文化支援、教育支援の実績や、その実績による表彰歴がある企業はアプローチ先となります。
(3)内部のネットワークを活用
企業との連携を行っている関係部署に相談し、つながりを持っている企業を紹介してもらったり、支援の依頼の際に同席してもらいます。理事会などがある場合、理事の人脈を紹介してもらうことも考えられます。
(4) 業界団体の集まりに参加
将来的に法人寄付を充実させていきたい場合、地元商工会議所、業界団体に参加し、企業との接点を増やしていきます。